ひとりきりで生まれた少年がいました。
ひとりきりで生まれ、ひとりきりで食べ、ひとりきりで眠る。
しかし、少年は自由でした。
退屈をしのぐ野山の優しい風も、空腹を満たす森の木の実も、あたたかな洞穴のベッドも、何不自由なく、少年のために用意されていたからです。
少年は、特に、春にさえずる鳥たちの歌声を聞くのが好きでした。
その歌声は、いつも少年を穏やかな気持ちにさせました。
そうしてもうひとつ、春に満開の花が咲く木々の下で過ごすのも好きでした。
特に地べたにねそべって見上げていると、春がきたことを心の底から実感できて満たされた気持ちになるのです。
*
ある夏の日、少年は恋におちました。
相手は夜の星くずから落ちてきた、バラの香りのしずくでした。
かぐわしい香りも、憂いを秘めた鈍い輝きも、少年にとってこの世界ではじめてみるほどの美しさでした。
少年はこの世界に落ちてきたしずくのためになんでもしてやりました。
「僕は君のことが好きだよ。」
ある日、そうして春の鳥たちのように少年が歌うと、
「私もあなたが好きよ。」
しずくはそう答えました。
少年がぱっと喜んでいると、
「好きよ、だって、あなたは私のためになんだってしてくれるしね。」
しずくはそう付け加えました。
その言葉は、まるで川の水面が夜の月の光をそのままはねっ返すような、真夜中にひっそりと佇む鏡のような、ひんやりとした冷たさをもっていました。
その冷たさに気づいた少年は、いい知れぬ不安に襲われました。
星くずからおちてきたバラの香りのしずくは、この世界に落ちてきたことが間違いで、どうしたっていつか消えてしまう運命でした。
そうしてその日がやってきて、少年はもう一度ひとりきりになってしまいました。
*
やがて季節がめぐり、春をまつ鳥たちがさえずりはじめました。
すこしづつ日がのび、あたたかくなろうとも、少年の心は満たされません。
この気持ちがどうやって薄らいでいくのか、全くわからないのです。
そうだ、あの木々の花が満開になるころに、出かけていこうか、そうしたら何か自分の心持ちは変わるのだろうか…。
少年はそのときを待ちました。
そうして鳥たちがよりいっそう高らかに歌い始めた朝、少年は出かけていきました。
木々に咲き乱れる花は、満開でした。
ちょうど四方に、見渡す限りに満開の花が広がって見える場所がありました。
少年はその地べたにねそべり、花々を見上げました。
それは、少年が何度も見てきた光景でした。
少年は、安堵しました。
そのときにようやっと、はじめっからひとりきりだったことを、思い出すことができたからです。
そこには孤独が溢れるような静けさが、群生していました。
そうして少年は花々を仰ぎながら、しずくを美しいと思ったあの気持ちを、そっと思い出しました。
ベビエバ2020年春新曲「桜の森」リリースしまーす。
2020年2月28日(金)に、Baby Ever Rain 2020年春の新曲「桜の森」をリリースしようと思います。いままだギリギリまで制作つめ中です…。リリースはYoutubeに動画つきでアップ、あとはバンドキャンプとかサウンドクラウドにもアップしようかな。
今回はサブスクななしの予定!そのうちアルバムとかでまとめられたらいいなぁとかとか、そしたらサブスクにのせるかも。
冬の間に坂口安吾の短編集とか読んでて、「桜の森の満開の下」って作品が好きなので、そこらへんから着想を得て、ギターも習い始めたんで今までとちょっと作り方なども変えていきました。
一足先にきいていただいた方(先生とか制作仲間とか)からは「幻想的な感じ」「メランコリックな感じ」と評していただいております(?)。
とにかくいまはあとちょっと、納得できるまで制作ギリギリまでやっていきます。
2月28日(金)以降はたくさん聴いてもらえるといいな…!
(えりこ。)